アフターデジタルとは、オンラインがオフラインを内含する時代のことです。
我々の生活上に完全にオフラインである場所がなくなり、いつ、どこにいようともオンラインに接点を持っている世界です。
本書では、UXコンサルタントで中国のビジネスに詳しいビービット株式会社の藤井氏が、この世界の新たなビジネスの考え方としてOMO(online-merge-offline)型ビジネスを紹介し、日本企業のビフォアデジタル型の考えを改める必要があることを説きます。
アフターデジタルの世界とは
アフターデジタルの世界では、オンラインとオフラインの境目がなくなり、互いに融け合ったような状態になります。この環境のことをOMOといいます。
世の中はIT技術の進歩によって以下のようなステップを踏んできました。
オンラインとオフラインの関係の流れ
- 別々:デジタルコンテンツとリアル店舗(サービス)が別々の状態
- O2O:デジタルコンテンツによる販促でリアル店舗(サービス)の利用を促進する
- OMO:デジタルを基盤としたデータ収集により、デジタル・リアル双方のサービスを顧客の選択肢として提示する。
グーグルチャイナの元CEOの李開復(リ・カイフ)氏は、OMOの発生条件として次の4つを挙げているとのことです。
OMOの発生条件
- スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及
- モバイル決済浸透率の上昇
- 幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、偏在する
- 自動化されたロボット、人工知能の普及
なんとなくわかりましたね。
モバイル決済やセンサーの偏在によって、いわゆるオフラインのリアルな世界においても、あらゆるデータが入手でき、それを高速で処理し、スマートフォンアプリなどによって状況に最適なソリューションを提供できる状態です。
これがオンラインがオフラインを内含した、アフターデジタルの世界です。
EC会社がオフライン店舗を持つ意味
無人コンビニとか無人レジとか、ロマンがありますよね。人件費がかからなくて、固定費が下がりそうです。
でも、これって企業側の都合ですね。無人だろうが、有人だろうが、買うものの値段は多分変わりません。
実はアフターデジタルの世界ではこう考えないのです。お客さんがなにか買うとき、デジタルなのかリアルなのか、気にしません。
状況に応じて便利な方を選ぶのです。
では、EC会社がオフライン店舗を保つ意味は何でしょう。
それは、購買行動のデータ収集にあります。センサーや画像認識技術が向上した昨今、店舗に訪れたお客さんの行動をデータとして集約、分析することが可能です。
今までは、データ収集といえば、デジタルコンテンツを利用したものが主たるものでした。
アフターデジタル型の企業はオフラインでもデータを取るのです。しかも、これまで取れていなかったデータを。
お客さんに状況にあった一番便利な方法で消費行動をしてもらい、それらすべてをデータとして収集することができるため、オフライン店舗を構えます。
さらに、オフライン店舗においては、オンラインでは提供し難い、感情価値や体験価値(楽しいとか匂いがするとか)を提供することができます。
オンラインで常時接点を持ち、オフラインでレアな接点を持ち、そして付加価値を提供する。
これがOMO型ビジネスの主たる考え方です。
こういった大量のデータを収集できることから、アフターデジタル型企業に重要なことは以下のようになります。
アフターデジタル型企業にとって重要なこと
- NPS(ロイヤルティ)の向上
- 状況志向ターゲティング
※NPS = ネット・プロモーターズ・スコア (企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるかを数値化する指標)
サービス業変革の最たる例「平安保険グループ」
既存型企業の変革好事例として「平安(ピンアン)保険グループ」が挙げられています。
平安保険は、1988年に中国・深センで創業した保険会社です。いわゆる既存型企業ですが、保健事業から保険銀行投資と拡大して金融系全般、さらには医療や移動、住居などの生活サービスにまでビジネスを拡大し、2017年からの1年間で株式時価総額は倍の約21兆3000億円二到達するという異例の躍進を遂げています。2018年末の株式が時価総額ランキングでは、私企業の中ではアリババとテンセントについで第3位にランクインしています。
保険事業の弱点
保険会社の従来型事業は、ユーザーの行動データによってビジネスが左右されるアフターデジタルの世界にあっては、顧客接点が少なく、データを収集しづらい点が弱点でした。
そこで平安保険グループは、医療、移動、住居、娯楽といった生活圏にサービスを拡大することによって、顧客接点を得ることにしました。
平安グッドドクターアプリ
中国(本書では上海を例に上げています)では、開業医の質がピンキリで豹馬が良くなく、人気の総合病院のようなところに人が殺到し、整理券が発行されてから7日待ち、という状況になってしまっていました。
そこで、整理券のダフ屋が横行し、高値で整理券が売買されるような状態が発生していたのです。
まっとうな開業医すら市民に信用されず、患者の配分が正しく行われていない悲惨な状況だったのです。
そこで平安グッドドクターアプリを開発しました。
重要な機能は以下の3つです
- アプリ上で開業医の無料問診が受けられる
- アプリで病院予約ができる(病院というより医者を選べる)
- 歩数をポイントにできる万歩計機能
最後の万歩計機能では、その日の歩数はその日のうちにアプリを開いてポイントにしないとリセットされてしまうという仕組みを導入しました。
この事により、ユーザーは1日1回はアプリを開くという行動を習慣化するようなります。こうして常時接点を作ったのです。
常時接点を作っておけば、データを収集できるだけでなく、広告も効果的に打ち出すことができます。秀逸な仕組みですね。
営業員の役割
デジタル時代に気になる人的リソースですが、平安保険の営業員は、顧客に寄り添うことを重視します。
いきなり保険が売れなくても、アプリのダウンロードをサポートし、良いアプリだということを認知してもらいます。
その後、データはアプリ経由で入ってくるので、営業員に顧客の「状況」をフィードバックし、状況にあった感情価値(個人的な困りごとを助けてあげるとか)を提供することによって信頼を獲得するのです。
先程の小売店の例に当てはめると以下のような感じでしょうか。
AIなどの躍進により、雇用が少なくなることが懸念されている昨今ですが、信頼感や人間の温かみというものは、人間にしか作れない、ということなのでしょう。
平安保険では営業員(人的リソース)をどんどん増やしているそうです。
いかがだったでしょうか。
私達は未だにオフラインが基盤でオンラインは付加的なもの、と考えてしまいがちです。
逆にプライベートや消費者として自分の行動を見てみると、Twitter上に会ったことのないけど気の合う友達がいたり、ネットショッピングを使うかリアル店舗を使うかは状況に応じて使い分けているだけであって特にどちらが主だと言う考えはあまり持っていませんよね。
サービス業や小売業の企業もこのように消費者側の視点に立ちつつ、データを取得し、UXの改善を超高速で実施していかなくては、これからの時代生き残れないのかも知れません。
本書には、他にも日本企業の強みや変革の指針などが書いてあります。
気になった方はぜひ手にとって読んでみてください。
本書の続編発売が決定しており、以下より、執筆中の原稿が公開されています。
コメント