2021年5月ー
いつもひいきにしている化学同人さんから、まさかのまさか。
私が大好きな野球に関する本が出版されました(もちろん化学も好きで、生業にまでしているのだが)。
ちなみにこれまで2件、化学同人さんの本をレビューしていますので、よかったら確認してみてください。


Amazonの履歴を見たら、5月24日発売の本書を5月22日に注文していました。初めての予約注文でした。
化学同人さんのTwitterを見てすぐにポチろうと、Amazonを開いた私でしたが、さすがに躊躇しました。
本体価格 \3,200- (+税)
いや、これ大学で使う教科書的な専門書じゃないっすよね…?
一般向け書籍にしては高くないっすか…?
比べることに意味はありませんが、
シン・ニホン \2,400-
FACTFULNESS \1,800-
利己的な遺伝子 \2,700-
21世紀の啓蒙 \2,500- (上下巻で\5,000-)
サピエンス全史 \1,900- (上下巻で\3,800-)
このビッグネームたち以上の価値を提供できますか???
勝手なイメージ、
・大衆向けのやつ = \1,500 ~ \2,500
・ちょっと高尚なやつ(学術系) = \2,000 ~ \3,000
というイメージだったため、すこしビビりました。
結論を言うと、非常に興味深い事が書かれていて大変勉強になるが、税込み3,500円の価値があるかというと正直微妙。といったところです。
3千円超えはハードルが高いって。どこでコストが掛かったのか?
この本に書かれている内容の価値を最大化できるほど、この分野について知識を持っている人には時代遅れな内容だと思うし、
それ以外の人は、この本からそれほど大きな価値を見出すことはできないのでは?というのが本音です。
ちなみに、翻訳はあんまり良くないです(私の好みではないと書いたほうが正確かもしれません)。
一回目読んだときは、翻訳が肌に合わず、半分くらいで挫折しました。
さて、前置きが長くなりましたが、一般向けにしては高価な本であることには間違いがないので、
どうすればこの本の価格に見合った価値(を最大限)を引き出せるのかについて書きつつ、本書の紹介をしたいと思います。
本編はこちらです↓
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本書を読む前に読んでおいたほうがいい本
いきなりで恐縮です。この本の価値を最大限享受するためには、知識が必要です。
そんな堅苦しいものではなく、セイバーメトリクスの根源的な考え方とセイバーの普及と歩んだメジャーリーグ変革の流れを知っておくべきだと思います。
両方ともよく知っている方で、今メジャーリーグで起こっている変革について知りたい方は、本書を購入すべきです。
そういう人こそ読むべきですね。
思ったより長くなったのでまずまとめ
今回、まず読んでおいたほうがいいよという本について書いたので、ド頭にまとめておきます。
セイバーメトリクスについて学ぶ
MLBの変革の歴史について学ぶ
ピッチング論について学ぶ
では、詳しく書いて行きます。
勝てる野球の統計学
「無死満塁は点が入りにくいのか?」
「ホームランバッターか三割打者か?」
など、いわゆるセイバーメトリクス本には欠かせない話題がわかりやすく解説されています。
セイバーメトリクスに興味がある人ははじめに読んでほしい本ですね。
セイバーメトリクス(野球の統計学)による客観的な評価の根底には、状況別得点期待値という超重要な考え方があります。
本書には、NPBにおける2004年~2013年の10年間の状況別得点期待値が掲載されています。
状況 | 走者なし | 一塁 | 二塁 | 三塁 | 一二塁 | 一三塁 | 二三塁 | 満塁 |
無死 | 0.455 | 0.821 | 1.040 | 1.360 | 1.417 | 1.721 | 1.974 | 2.200 |
1死 | 0.242 | 0.499 | 0.687 | 0.919 | 0.905 | 1.158 | 1.335 | 1.541 |
2死 | 0.091 | 0.214 | 0.321 | 0.371 | 0.434 | 0.487 | 0.586 | 0.740 |
ここで気をつけたいのは、その状況になったあと、スリーアウトチェンジになるまでに平均何点獲得したかを集計したものである。ということです。
バントの有効性の議論には、期待値だけでは不十分である場合があり、状況別得点確率(1点でも取れる確率)についても議論する必要がありますね。
野球は、上の表を見てもわかるように、24の状況に分割することができます。こういう離散性が、野球と統計学を結びつけたと主張する人も少なくないです。
参考までにMLBの1959年~1960年の2年間の状況別得点期待値も載せておきます。
状況 | 走者なし | 一塁 | 二塁 | 三塁 | 一二塁 | 一三塁 | 二三塁 | 満塁 |
無死 | 0.461 | 0.813 | 1.194 | 1.390 | 1.471 | 1.940 | 1.960 | 2.220 |
1死 | 0.243 | 0.498 | 0.671 | 0.980 | 0.939 | 1.115 | 1.115 | 1.642 |
2死 | 0.102 | 0.219 | 0.297 | 0.355 | 0.403 | 0.532 | 0.532 | 0.823 |
この類似性はなんでしょう。時代も国も違う数字がこんなに似通っているのはとても面白いですね。
セイバーメトリクスによる評価の根底には、この状況別得点期待値があり、ワンプレーの価値はこの数字をもとに算出されます。
ちなみに得失点と勝敗数の関係を見るとだいたい、10得点=1勝という事がわかっており、
得点を試合の勝数に変換して議論されることもしばしばあります。
本書を読んで、まずはセイバーメトリクスという物の考え方について知るといいと思います。
マネー・ボール
さて、セイバーメトリクスの根本原理を知りました。
では、現場ではどのように活用された歴史があるのでしょうか。
そこでブラッド・ピット主演で映画化もされたマネー・ボールです。ブラピかっこいいよブラピ。
セイバーメトリクスは、球場の外で生まれました。
ビル・ジェームズという物好きが、自分でまとめたデータを自費出版で出したことを皮切りに、
そういった物好きたちが集まり始めたと言われています。
野球と数字が好きなオタクたちが生み出し、球場の外でワイワイ議論をしていたそうです。
マネー・ボールは、2000年くらいの弱小クリーブランド・アスレチックスのフロントオフィスを舞台として描かれているノンフィクション小説です。
どのようにチームを編成するか。
それは、スカウトが各地へ飛んで、良さそうな選手を探したり、FAを高額で引き入れたり、球団間での交渉によるトレードによって選手を得るのが普通です。
どんな選手をスカウトするのが良いか?
ドラフトに向けてスカウトたちは全国に飛び回り、打てそうなバッター、足の速いバッター、速い球を投げる・いい変化球を投げるピッチャー、コントロールのいいピッチャーを探し出します。
今でも普通に行われていると思います。
プロ野球ファンならご存知ですが、ドラフトで獲得した選手たちが実際に1軍(メジャーリーグ)で活躍する割合はどれくらいでしょうか?
思ったより少ないですよね。プロのスカウトを持ってしても、プロ野球選手として活躍できる選手を見出すのはかんたんなことではないのです。
FAで選手を引き入れる
スカウトが難しいならどうするか。
すでにプロ野球の世界で活躍している選手に大金を積んで自チームに移籍してもらえばいいのです。
ただし、これには膨大なお金がかかります。
すでに活躍している選手というのは市場価値が高いと判断されるわけですから、獲得は他球団との競争になりますので、
資金力の勝負になるのです。
トレードによる獲得
上位2つ以外にも一般的に選手を獲得する方法としてトレードがあります。
これは、球団間の交渉で行われます。
GMが互いに条件を飲めば成立するので、編成で足りない部分、余っている部分を交換するような感じですね。
さて、マネー・ボールでは、当時のフロントオフィスとして初めて出塁率に注目しました。
資金力に乏しいアスレチックスは、他球団が価値を感じていない部分に価値を見出し、少ない資金で勝てるチームを作る必要があったのです。
今でこそ、出塁率、OPSに注意が払われるようになりましたが、当時(今も一部)は、やはり打てるバッター(打率の高いバッター)の価値が非常に高かったのです。
まあ今でも価値は高いと感じますが。
一方で、出塁率が高いバッターには、そこまでの市場価値はついておらず、低資金のアスレチックスでも獲得することができました。
なぜ、出塁率がそんなに大切なのか。
だからです。野球は性質上、アウトにならなければ無限に得点を加算することができます。
よく、野球は9回2アウトからなんて言われますよね。
それは、9回の3アウト目を取るまで、一生試合が続くからなのです。
さて、とまあ、アスレチックスがセイバーを取り入れて成功する様子が描かれているわけですが、
こういった成功を収めると当然競合は追従します。
データ分析がMLB球団に取り込まれ、次第に普及していくのでした。
マネー・ボールは、野球というゲームの本質を理解し、既存のデータを利活用し、
低予算で勝つための戦術・戦略を考えていったチームの物語でした。
もちろんブラピが超かっこいいので、映画もいいですが、やはり書籍を読むことをオススメします。
ビッグデータベースボール
さて、アメリカン・ベースボール革命についての紹介を書いていたつもりが他の書籍の紹介のボリュームが増えてまいりました。
でも、この本から最大限価値を引き出すためには背景知識みたいのがあったほうが絶対いいんです…!
もう少し付き合ってください。
ビッグデータベースボールは、アメリカン・ベースボール革命の著者の一人である、トラヴィス・ソーチック氏による、
弱小球団ピッツバーグ・パイレーツの立て直しについて書かれた書籍です。
どれくらい弱小かというと、
1993年から2012年までの20シーズン連続負け越しを記録(それまでの記録はフィラデルフィア・フィリーズが1933年から1948年にかけての16年)。これは北米4大プロスポーツリーグにおいて最長記録となり、と同時に観客動員数の低迷に悩まされた。
選べる主菜こと藤岡裕大選手が生まれて成人するくらいの間、ずーっと負け越してました。
負け続ければ、見に来る人が減ります。
見に来る人が少なければ、当然球団の収入は少ないです。
球団収入が少ないと、選手にかけれる予算が減ります。
選手にかけれる予算が減ると、勝てるチーム作りが難しくなるのです。
すなわち、負け続ければ、負ける。
そういった最悪の状況を作り出していたパイレーツはどのように再建されたのでしょうか。
取得できるデータが圧倒的に増えた
題名にビッグデータとあるように、センサーとかの技術の進歩によって取得するデータが増えました。
マネー・ボールの時代に取得できたデータは、最終的な結果のみでした。
一方で、2010年代に入ると、打球がフィールド上のどこに、どのように飛んでいったという過程付きでの結果に着目され始め、
ついには、ピッチャーが投げるボールがどのような回転で、ストライクゾーンに対してベース板上をどのように通過した、
みたいな情報も獲得できるようになります。
どこを守ればいいのかがわかる
さて、打球のフィールド上の動きを把握すると、驚くべきことがわかりました。
ゴロは引張り方向に飛ぶことが多い
ということです。
これまで、守備位置といえば、打者や投球コースによって数メートルの移動はあったものの、基本的には伝統的に決められた(?)場所に着くのが普通でした。
うん、というかそんなことに疑問を持ったこともないし。
これはMLBのレベルでも同じです。ですが、データを取ると合理的な守備位置ではない、ということが判明したのです。
そして、そのデータをもとに、極端な守備シフトを敷くことになりました。
これだけで、アウトの数を通常時より多く稼ぐことができました。
キャッチャーの価値をかんがえる
キャッチャーってかなり特殊なポジションですよね。
私の幼い頃は、強打で当たり前だったキャッチャーですが、やはりキャッチャーは扇の要。
守備で貢献してなんぼです。
キャッチャーの要素として、
・配球、リード
・キャッチング(フレーミング)
・ブロッキング
・スローイング
というものが挙げられます。
守備の良いキャッチャーといえば、スローイングが目立ちがちですが、その他の要素は、スローイングより重要だと行っても過言ではありません。
パイレーツは、「キャッチャーの守備得点」(キャッチャーとして何点防いだか)という指標を用いてキャッチャーの評価を推し進めました。
上記の要素のなかでも、フレーミングという要素は、昔から概念的にはあったものの、
良し悪しを客観的に評価をすることが難しかった要素です。
しかし、先程書いたように、技術の発展により、ピッチャーの投球がどこを通過したのかを計測できるようになったため、
キャッチャーのフレーミングによる、ストライク/ボールの判定への影響が、客観的に評価できるようになりました。
新たなデータを活用して、守備の戦略を変えた
というように、パイレーツは新たに取得できるようになったデータを用いて、守備の戦略に役立てました。
その結果20年連続負け越しから脱出し、2013年か3年連続でワイルドカードに進出するなどを躍進を遂げ、
客足もV字回復するのでした。
アストロボール
ごめんなさい。これは読んだことがないのですが、ゴミ箱アストロズがなぜあんなに強くなったのか、
ということが書かれているっぽいです。
内容的には、アメリカン・ベースボール革命とかぶるかもしれません。
機会があったら読んでみます…!
セイバーメトリクスの落とし穴
この本は、お股ニキというTwitterでダルビッシュに認められたというアマチュア(?)評論家が書いた本です。
こういう球場外からのチャチャ入れには、当然賛否が伴います。MLBも同じ道をたどってきたのです。
そんなことはさておき、お股ニキは野球素人でありながら、野球観戦についてはプロ級という観察眼、分析眼を持った方です。
2,3章の「ピッチング論(投球術、変化球)」に関する項目は、読む価値があります。
ほかはすっ飛ばしていいです。2,3章を読むだけで、普段のプロ野球観戦が面白くもなり、(特にカメラの角度に)新たな不満を抱えたりすることになります。
アメリカン・ベースボール革命で論じられていることを理解するためには、「セイバーメトリクスの落とし穴」にのピッチング論に書かれている知識は必須かなと思います。
これがあるのとないのとでは、面白さが全然違いますので、ぜひ読んでみてほしいです。
前編の終わり
後編では、ようやっと本題であるアメリカン・ベースボール革命のレビューに入ります。
というかここまで紹介した本を全部読んだよ~って方は、実際に手を撮って読むほうが早いですね…。
続く。
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