本書は元マッキンゼーのコンサルタントでヤフーのチーフストラテジーオフィサーの安宅和人氏の著書です。
著者は、東京大学で生物化学分野の修士号を取ったあと、マッキンゼーに入社。途中、退職してイェール大学でPh.Dを取ったあと復職、そのあとヤフーに移っているビジネス分野でも科学分野でも超エリートマンです。
そんな著者が、生産性とは、価値のある仕事とは何かについて書いたのが本書というわけです。
本書は2010年に初版で10年経った今でも刷数が増えているようです。私の持っているもので2018年2月時点で第25刷(2018年6月購入)。
ちなみに著者は2019年に「シン・ニホン」というAI時代に日本を再興させるための施策を提言した400ページオーバーの本を出していて、こちらもかなり話題になっています。私も読みましたが、事実に基づく深い考察と解決策の提案を見ると、これがマッキンゼーの仕事かと一種の感動を覚えます。本質を突きながら、実現可能(と思わせる)解決策を提示してくれています。
「イシューからはじめよ」を実践するとこうなる、ということがわかるので、先に「イシューからはじめよ」を読んだ後に「シン・ニホン」を読むとまた別の側面で面白いかと思います。
「シン・ニホン」がどんな本であるか簡単に説明すると、「マッキンゼーのコンサルタントが国をコンサルした本」です。ぜひ読んでみてください。
私もいつか紹介してみたいと思っていますが、きちんとまとめられるか自信がありません。
さて、話が横道に逸れてしまいました。今回は「イシューからはじめよ」のエッセンスを5分で紹介したいと思います。冒頭のマインドマップもぜひ参考にしてください。非常にまとまりがいい本なのでマインドマップの9割は目次を見て書きました。目次だけ紹介するだけでも、「なるほどイシューからはじめよとはこういうことなのか」がお分かり頂けるかと思います。
「イシューからはじめよ」とはズバリ

価値ある仕事は、イシュー度×解の質で定義されていて、両方を満たす「本当に重要な仕事」はわずか1%であるということ。
数打ちゃ当たると闇雲に頑張っても、鍛錬によって解の質は上がるが、イシュー度のある仕事に当たる確率は低いよ、ということです。著者は本書でこのようなアプローチを「犬の道」と表現し、これを脱しようと提言しています。
生産性を定義するとoutput/inputとなりますが、世にいる生産性が劇的に高い人は、仕事のスピードが何十倍も速いということではなく、イシュー度が高いテーマに取り組むことができるから、いい仕事ができる、と説きます。
つまり、イシュー度を高めて(良いイシューを設定して)から、解の質を上げていくことが重要だということです。
山登りに例えると、イシュー度とは「どの山を登るか」で解の質とは「どのルートで山に登るか」と言えると思います。
ちなみに本書は、下のような構成になっており、それぞれを山登りに例えると、こうなります。
「イシューからはじめよ」のエッセンス終わり。
では、細かく見ていきます。
イシュー度が高い(良いイシュー)とは?
良いシューには3つの条件があります。
本質的な選択肢である
深い仮説がある
(1) counter intuitive(常識に反する)仮説。
わかり易い例として、「天動説vs地動説」、「時間と空間の関係(一般相対性理論)」
(2)新しい構造で説明する仮説
a.共通性の発見
b.関係性の発見
c.グルーピングの発見
d.ルールの発見
答えが出せる
答えが出せないイシューは無価値(バッサリ)。
どういうことか。既存の方法では答えが出せない問題というものが存在する。その「方法の開発」自体がブレイクスルーとなりうるのですが、なりうるからこそ、その方法を使わなければ今の所答えが出せないイシューは無価値であるといいます。
イシューを見極めるためにはどうしたら良いか
著者は「最終的に何を伝えようとするのか明確にする」ことが重要だといいます。演繹的に解決するというよりは、帰納的にイシューを考えることによってその度合を見極めろというとこでしょうか。
最終的に何を伝えようとするか明確にするためには、先んじてイシューに答えを出してしまうことが肝要だということです。
つまり仮説です。「仮説」が単なる設問をイシューにするのです。
重要なところなので、本書から具体例を引用します。
日本の会社では、「○○さん、新しい会計基準についてちょっと調べておいて」といった仕事の振り方をしているのを目にする。(中略)
「新しい会計基準下では、わが社の利益が大きく下がる可能性があるのではないか」「新しい会計基準下では、我社の利益に対する影響が年間100億円規模あるのではないか」「新しい会計基準下では、強豪の利益も変動し、わが社の相対的位置が悪化するのではないか」「新しい会計基準下では、各事業の会計管理・事務処理において何らかの留意点をもつことで、ネガティブな影響を最低限にできるのではないか」このくらいのレベルまで仮設を立てて仕事を与えられれば、仕事を振られた人も自分が何をどこまで調べるべきなのかが明確になる。「イシューからはじめよ」P.49-50
仮説を立てる
ここからは、「解の質を上げる」ことに焦点を置いています。
「イシュー度」と「解の質」の両方に深く関連してくるのが「仮説」ですので、「価値のある仕事」のいちばん重要な部分がこの「仮説を立てる」というところなのかもしれません。それを支持するように、「仮説」については2章立てで論じられています。
イシューの分解
イシューは大きな問なので、「答えを出せるサイズ」まで分解していきます。
・モレもなくダブリもなく(MECE)
・本質的な固まりまで
イシューを分解したあとは、それぞれに具体的な仮説を立てます。そうすることで、必要な分析なイメージが明確になります。
イシューも同様ですが、
やってみなくてはわからないとは決して言わない
ことが、とても重要なことだそうです。
ストーリーラインの組み立て
典型的なストーリーラインは以下のようなもの。
ストーリーラインが必要な理由
(1) 結論だけ述べても聞き手が納得するストーリにはならない
(2) ストーリーの流れによって、以降に必要となる分析の表現方法が変わる。
このステップが「まだ検証に入る前」であることです。ストーリーラインを作成し、どんな分析をして、どんな表現をするのかを具体的にイメージします。
ストーリーラインの役割
ストーリーラインは、検討が進み新たなことがわかるたびに書き換えて、ブラッシュアップされるもので、絶対的なものではありません。
ストーリーとは結局ロジックのことなので、ストーリーラインの作成には、「WHYの並べ立て」、「空・傘・雨」のようなピラミッド構造の型を利用するといいそうです。
ピラミッド構造に関しては以下の書籍に詳しいです。
絵コンテの作成
絵コンテとは、最終アウトプットの雛形であり、設計図です。ストーリーラインという論理に分析や検証のイメージを具体的に作成していきます。ここでも考え方は同じで「どのような結果があれば、イシューを検証したと言えるのか」という結果起点の考え方で作り上げていきます。「どんなデータが取れそうか」ではなく、「大胆に思い切って描く」のが大切だそうです。
下記にその手順を簡単に示します。

アウトプット・メッセージ
以降は、仕事の結果を形にするステップですが、本書のテーマである「知的生産性の向上」「価値のある仕事とはなにか」に対する答えとしては、これまで紹介してきた内容より重要度が若干落ちると考えられますので、本記事での紹介は割愛したいと思います。気になる方はぜひ本書を手にとって読んでみてください。
さて、いかがだったでしょうか。
生産性を劇的に向上させるためには、「イシューを見極める」ことから始めるのが重要で、
その検証は、「ほしい結果から考える」ことで解の質を上げる、というお話でした。
みなさんもできるところから始めてみてはいかがでしょうか。
最後に、序章に書いてある著者の最大のメッセージで締めたいと思います。
僕自身の体験を踏まえ、一緒に仕事をする若い人に浴するアドバイスがもうひとつある。それは「根性に逃げるな」ということだ。
「イシューからはじめよ」p.35
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