さて、前回の記事では、ギリシャの元財務大臣バルファキス氏が書いた、娘に語る経済の話をやりました。

今回は、新しい貨幣に関する理論、MMT(現代貨幣理論)を基に日本の経済政策についてみていきます。
本書は日本におけるMMTの火付け役ともいえる、官僚の中野剛志氏による著書です。
副題に目からウロコの、とあるように、私たちの頭にある経済のイメージを根本から変えてしまうようなことがたくさん書かれています。
我々の経済合理性は、国家の経済にとって必ずしも合理的でない(合成の誤謬)、ということ念頭に、平成日本の財政政策が間違っていたために、デフレから20~30年物長期の間脱却できなかったと指摘します。
どうしてそのような状態に陥ってしまっているのでしょうか。
みていきましょう。
日本はデフレ
自民党が民主党から政権を奪還したとき、安倍総理は「日本を取り戻す」と「デフレからの脱却」というのを全面に押し出して選挙活動していました。
「アベノミクス」という言葉が2013年の流行語大賞になるなど、経済政策をとてもアピールしておりました。
1995年から2015年の名目GDP成長率をみると、日本はマイナス20%。欧米のいわゆる先進国でも各国大方50%以上の成長をしているのに、日本だけ異常な数字となっております。他の先進国の成長率をみると、成熟国家だから成長が見込めないという言い訳はできません。
日本は長期のデフレに陥っているから経済成長ができていないのです。
デフレとは、「カネの価値が上がること」を言います。カネの価値が上がるということは、人々はモノを買わずにカネを溜め込みます。
こうなると需要は冷えますね。さらに、借金をすると、カネの価値が上がるわけですから、借りたときよりも実質的に借金が膨らんでいることになります。
これでは、企業や個人が融資を受けたり、ローン組みたがらないのも納得ですね。
インフレはこの逆のことが起きます。すなわち、カネの価値が下がり、消費(需要)が増える。消費が増えれば、企業が儲かりさらなる投資や雇用の拡大がしやすくなります。これが経済成長だと言っても過言ではありません。経済成長とは基本的に、緩やかなインフレ状態にあることを前提にしているのです。
デフレとインフレ
さて、デフレとインフレが起きる原因は何なのでしょうか。そして、政府はそれに対してどのような対策を打てば良いのでしょうか。一覧にすると以下のようになります。
現象 | インフレ | デフレ |
原因 | 需要 > 供給 | 需要 < 供給 |
政策目標 | 物価安定・賃金抑制 | 雇用の確保・賃金上昇 |
政策 (需要対策) |
小さな政府 緊縮財政 増税 金融引締め |
大きな政府 積極財政 減税 金融緩和 |
政策 (供給対策) |
競争促進・生産性の向上 (自由化、規制緩和、民営化、労働市場の流動化) グローバル化の促進 |
競争抑制 (規制強化、国有化、労働者の保護) グローバル化の抑制 |
イデオロギー | 新自由主義 | 民主社会主義 |
時代 | 1970年代 | 1930年代、現在 |
需要が減って、供給が大きくなるためモノの価値が下がって相対的にカネの価値が上がります。これがデフレーションという現象です。経済成長の前提であるインフレにするためには、これを逆転させる必要があります。
デフレ対策を3つの観点から考えてみるとこのようになります。
では、これまで日本政府が行なってきた政策はどうだったでしょうか。
先程の表で日本がやってきた政策を赤字にしてみました。皆さんご存知のとおりだと思います。
現象 | インフレ | デフレ |
原因 | 需要 > 供給 | 需要 < 供給 |
政策目標 | 物価安定・賃金抑制 | 雇用の確保・賃金上昇 |
政策 (需要対策) |
小さな政府 緊縮財政 増税 金融引締め |
大きな政府 積極財政 減税 金融緩和 |
政策 (供給対策) |
競争促進・生産性の向上 (自由化、規制緩和、民営化、労働市場の流動化) グローバル化の促進 |
競争抑制 (規制強化、国有化、労働者の保護) グローバル化の抑制 |
イデオロギー | 新自由主義 | 民主社会主義 |
時代 | 1970年代 | 1930年代、現在 |
なんと日本は、インフレ対策をたくさんやってきたのです。
何故間違うのか
どうして間違った政策をやってきてしまったのでしょうか。
貨幣の本当の姿
貨幣は特殊な負債の一種であり(信用貨幣論)、金などの有価物の裏付け(商品貨幣論)を持っていない「不換通貨」です。
前回の記事でも紹介しました。お金はどのように生まれるのでしょうか。
そうですね。銀行がパッと魔法のように生み出すのでした。

では、なにをもって人々は貨幣を信用しているのでしょうか。
MMTでは、税金をキーとしています。
つまり、有価物の裏付けを持たない現代の貨幣は、国が貨幣だと認めることで貨幣に価値をもたせているのですが、具体的には、「納税の手段となる」ことでその価値を担保しているというのです。
現代貨幣論MMTでは、「通貨の価値を裏付けるものは、租税を聴取する国家権力」としています。
財政赤字の誤解
日本のGDPに占める政府債務残高は240%になり、先進各国と比較して最悪の水準になっています。このことをベースに「財政破綻が近い」などという言説をよく目にしますが、財政破綻が近い割には、国債の金利は逆に下がっていっています。
国債とは国がお金を借りることです。この国債を銀行が買ったとすると(詳細は省きますが)、日銀がお金を「魔法のようにパッと生み出して」、政府の口座にお金を入れます。
政府はそのお金を公共事業などに使えば、その魔法のように生み出されたお金は企業の口座に書き換えられます。
つまり、政府の支出は民間の貯蓄になるのです。したがって、貨幣の供給は、財政赤字によって行われるということです。
いままで説明しませんでしたが、銀行は無限にお金を創り出すことができますが、その限界は借り手の返済能力に依っています。この場合、国の返済能力ということになるのですが、国は自国通貨を創り出すことができるので、無限に赤字をふくらませることができます(つまり無限にお金を供給できる)。
そこで制限の指標となるのがインフレ率です。お金を供給しまくると当然インフレになります(カネの価値が下がる)。なので、財政赤字の多寡はインフレ率で判断すべきなのですが、世の中の論者はそのように判断しないため、日本はデフレのままなのです。
先程の税金の話ですが、現代貨幣論では税金は「貨幣の価値を担保するための手段」であって「財源ではない」わけです。なぜなら、国は無限にお金を生み出せるため、税を財源とする必要がないからです。
現代貨幣論
現代貨幣論MMTは上記のような考え方に基づき、様々な施策などを提案しているのですが、経済学会では異端児扱いされてしまうようです。
そのことについても恨み節のようにたくさんのことが書かれていますが、ヒントとなるのが前回記事で紹介した「経済学は公式のある神学」というものです。言葉は違いますが、同じようなことが本書にも書かれています。自然科学とは異なり、実証が難しいことから真実(やそれに準ずる妥当と思われること)が何かを議論する風土ではないようです。
いかがだったでしょうか。
今回紹介した内容だけでもまさに「目からウロコ」だったと思います。
ワタシ的ハイライトは、
現代貨幣論では税金は「貨幣の価値を担保するための手段」であって「財源ではない」わけです。なぜなら、国は無限にお金を生み出せるため、税を財源とする必要がないからです。
これはとても重要な考え方だと思います。
より詳しくみたい方はぜひ手にとって読んでみてください。
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