前回の記事では、なぜ日本がデフレ脱却できないのかについて現象と対策の面でみてきました。

今回はその続編。
私たちは、世の中(政治経済)をどうみて、どのように判断すればいいのでしょうか。
それが今回の戦略編に書かれています。早速観ていきましょう。
本書には特別付録として「よくわかるMMT(現代貨幣理論)入門」というものが収録されています。昨今、話題になっている(そして政界・財界の大物に批判されている)MMTについてわかりやすく書かれています。一読の価値あり、ですよ。
思想決定説と政治決定説
経済の方向性を決める軸は大きく二つに分かれます。
それが思想決定説と政治決定説です。
思想決定説では、ある考え方に基づいて方向性を決める方法で、
政策が間違っているということは、考え方が間違っているということです。
つまり考えを正せば良い。
一方で政治決定説は、影響力、政治力の強いある人物(組織)の利益が増える方向に、政策を決定しようという方法です。
つまり、政策が間違ったほうに進んでいるとき、それは(誰かの利益のために)意図的に行われているため、そういった影響力、政治力というものを改革しなければなりません。
今回は、二つの成長戦略という観点から、日本で複雑に絡み合う政治と思想について見ていきます。
さらに、政策を四元軸でみるという新たな提案についても、解説していきたいと思います。
副題に「全国民が読めば歴史が変わる」とあるように、より多くの人々がこれを読み、日本を見直すことによって、一人一人が持つ選挙権と言うものを行使すれば、本当に世の中が変わるかもしれません。
二つの成長戦略
国家の成長戦略は2つのタイプがあるといいます。
賃金主導型成長戦略
賃金主導型の成長戦略とは、賃金の上昇ををドライビングフォースとして国民経済全体を成長させようとするもので、本書ではアメ型成長戦略と呼んでいます。
賃金を上昇させる要因として、「労働者不足」、「強力な労働組合」、「労働者保護の規制が強いこと」が挙げられています。
成長のプロセスとしては、
賃金の上昇
↓
生産の合理化、高付加価値製品の開発
(企業にとっては困難な道ではあるが。。。)
↓
利益の増加
↓
賃金の上昇
↓
消費の増加
この好循環が成長を生みます。
このように、アメ型成長戦略はインフレ圧力を生みます。
この戦略の重要な点として、「制約が成長の源泉となること」と書かれています。
強い労働組合という、企業の競争力にとっての制約こそが、成長の源泉になっているのです。
工場などの海外移転や海外の安い労働力の流入を抑制するという「制約」がこの戦略の重要な点であるということです。
実際、戦後日本の目覚ましい成長はこういった戦略によって推進されました。
利潤主導型成長戦略
利潤主導型成長戦略とは、企業の利益の上昇をドライビングフォースとして成長を遂げるという戦略で、本書ではムチ型成長戦略と呼ばれています。
企業は利益を上げるために、人件費を抑制し、効率化をします。当然生産性の低い労働者のクビも切ります。
アメ型成長戦略と真逆の発想に基づいているのです。つまり、制約は緩和・撤廃をしなければなりません。
投資家の発言力が強まることも重要な要素です。
さらに、「グローバリゼーション」は賃金抑制のムチとして決定的に強力だといいます。
海外から安い製品が流入し、激しい国際競争にさらされれば、企業は賃金を抑制せざるを得ず、工場の海外移転や低賃金労働者の流入は、賃金抑制に効果的なので、その方向にかじを切ります。
つまり、経済界はムチ型戦略の方が比較的楽にコストダウンが可能というわけで、それによって国内の需要が落ちたとしても、海外市場を取りに行けばよいため、あまり困らないようです。
「ムチ型」では成長できない
企業の利潤が増加しても、それを労働者に還元してしまっては、企業競争力が損なわれるので、なかなか回されません。しかも、株主の圧力が強いので、さらに労働者に配分が回ってこないのです。
しかも、デフレ下であれば、貨幣の価値は上がるので、企業はカネを溜め込みます(これは合理的な判断です)。格差が広がり、経済成長が望めないといいます。
レントシーキング活動
レントシーキング活動とは、自分の利益を増やすためにルールや規制あるいは政策の変更を行うように政治に働きかけることです。
デフレ下のレントシーキング活動は、経済の全体のパイが増えないために「ゼロ・サム(他人の利益を奪う)」になりがちです。
ルサンチマンが標的に
デフレで(しかも賃金抑制の圧力がかかると)働いても儲からず、給料も上がらないという事態になります。そのうち、儲かっている人間をみると、「彼らが不当に利益を上げているせいで自分の仕事がうまく行かないのではないか」という疑いの感情が持ち上がってきがちです。これがいわゆるルサンチマン(怨恨)と呼ばれるものです。
レントシーカーたちは、このルサンチマンを利用し、民意を操作して自分の利益になるようにルールや規制を変えてしまうのです。
既得権益
レントシーカーたちは「既得権益」という魔法の言葉を使い、一律に不当に利益を上げている悪として印象づけ、ルサンチマンを抱く国民感情を操作します。
著者は、既得権益は必要なルールや規制ができたおかげで、結果として生じるものであり、必ずしも不当、不公正なものではないと説きます。
例えば、障害者を守るための規制があるおかげで、障害者は利益を得ますし、自然公園というルールは、自然公園を保護する作業の従事者に利益をもたらします。
日本人であることも既得権益?
我々日本人は、日本人として生まれ育ったからこそ日本人なのであり、これはそういった法律に守られた存在です。日本人であることで、義務教育が受けられたり、「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されています。著者が、グローバル化(移民政策やTPP)によってこの既得権益が失われかねないと説きます。
既得権益という言葉に踊らされて、何でも悪と認識するのは危険ですね。
その既得権益がなぜ生じていて、その根本にあるルールや規制が本当に必要なものかどうかきちんと考える必要があります。
得するのは誰?
まず、デフレで得するのはお金をたくさん持っている人たちですね。なぜなら、インフレでおカネの価値が下がるとお金を持っていれば持っているほど資産価値が目減りするからです。
ムチ型成長戦略で得する人はだれでしょう?
経営者や投資家たちですね。労働力を安く買い叩くことで、利益を上げることができ、投資家たちはその配当を受けるからです。
いわゆる財界の重鎮、影響力の大きい資産家たちが政治を動かすというのはどういうことなのか。
よく考え、民主主義の利点を上手に活用したいものです。。。
どうして、法人税が減らされ、消費増税が実施されたのでしょうか。
四象限でみる政策
さて、我々はどのように政治家をみて、民意によって、我々が利益を享受する世の中を作り上げれば良いのでしょうか。
著者は、右派(保守派)・左派(リベラル派)をさらに2つに分け、政策を四象限に分類しています。
最近の日本は、1970年代以降、米英がインフレで悩んでいた頃の政策である新自由主義に傾いているため、主な与野党には、親グローバル派のみが選択肢になります。
一方で、皆さんも御存知の通り、最近欧米では、自国第一主義を掲げる反グローバル派が台頭しています。(不法)移民やグローバル化(自由貿易)等によって、様々な不利益が国民に降り掛かっており、その鬱憤が選挙や政治活動に発現したものと考えられます。
本書の思想に近い政治活動団体
さて、本書では最後に、著者の思想に近い政治団体を挙げています。
1つめが、反緊縮財政、反グローバリズム、反構造改革を掲げる令和ピボット
2つめが、反緊縮財政を掲げる薔薇マークキャンペーン

詳しくはリンクより確認してみてください。
さて、いかがだったでしょうか。
これを機に政治や財界の動きに興味を持って、皆さんが考え、行動できる世の中になればいいなと思います。
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