『夜は短し歩けよ乙女』|真面目でふざけた恋愛ファンタジー

小説
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初の小説レビューは、森見登美彦氏の「夜は短し歩けよ乙女」です。本作品は、2007年に山本周五郎賞を受賞した作品で、ついこの間(2017年)映画化し、なんたら賞を受賞するなど、長い間ファンに親しまれてきているベストセラー作であると言えるでしょう。

130万部ですっておくさん。

過去に同氏の処女作である「太陽の塔」(2005年日本ファンタジーノベル大賞受賞)を読んだことがありますが、訳のわからないファンタジックで頭のオカシイ出来事とオタクが早口で言ってそうな文体は私の大好物です。先に言っておきます。本書を含め、まだ2作品しか読んでいませんが、私は森見登美彦氏の小説が好きです。本棚にまだ読んでいない「きつねのはなし」「有頂天家族」「有頂天家族 二代目の帰朝」があるので、これから読むのが楽しみです。ちなみにどうでもいいですがこの5作は、私の兄のチョイスで、ありがたいことにプレゼントしてくれました。ありがとう、兄貴。

山本周五郎賞とは「主に大衆文学・時代小説の分野で昭和期に活躍した山本周五郎にちなみ、すぐれた物語性を有する小説・文芸書に贈られる文学賞である。」だそうですが、私には優れた物語性を感じることができませんでした。代わりに感じたのが、

「作者、アブナイおクスリでもやっているのではなかろうか」

ということでした。優れた芸術家がおクスリでぶっ飛んでたという話は聞かない話ではありませんが、この作品には同様のことを感じました。優れた芸術とアブナイおクスリの効果は紙一重なのかもしれません。

本書は、恋愛ファンタジーというジャンルに属するらしく、文字通りファンタジーな世界で一人の男が恋するようすが描かれています。ファンタジーといっても異世界的な要素はなく、私たちのよく知る普通の日常が展開されていると思った次の瞬間に現実世界ではありえないことが起こったりするようなタイプのファンタジーな世界観で、これを表現するのにラーメンズの小林賢太郎氏の言葉を借りたいと思います。

本書の世界観は「非日常の中の日常」とでもいうべきものだと感じました。

本記事で物語のあらすじに本文からの引用を交えつつ、本書の世界感と文を味見していただきたいと思います。まだ森見登美彦ワールドに入門していない方々のご参考になれば幸いです。

本書は季節的には春夏秋冬の時期についてそれぞれ描いた4章構成になっており、主人公である「先輩」(名前はない)と先輩が思いを寄せる「黒髪の乙女」(名前はない)の2人の視点が入れ代わり立ち代わりしながら物語が進行していきます。

1章と4章に重点を置きながら、それぞれの章で気に入った文を引用していきたいと思います。
なお、以下にはネタバレが含まれますが、ネタバレしたところでオモチロク読めると思いますよ。

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第一章 夜は短し歩けよ乙女

時季は新緑も盛りを過ぎた5月の終わりのことです。クラブのOB同士の結婚式に参加します。師匠筋に当たる結婚パーティのため、顔を出したのですが、思いを寄せる黒髪の乙女が参加するパーティ。一目惚れしたその日から未だ大した交流を持ったことのない先輩にとって、今宵はいわゆる好機の一つでありました。
黒髪の乙女は二次会へは行かずフラフラと木屋町先斗町の夜へと消えていきます。「先輩」はそれを追いかけますが、ズボンと下着を奪われ手身動きが取れなくなります。
ちょっとあらすじを書くのがめんどくさくなったので、下の図を御覧ください。

夜は短し歩けよ乙女

うん。わからないでしょう。途中でめんどくさくなったんで。まあ読んでもわかった!となるようなものでもないので、完成度はさておきたいと思います。

以下本章で気に入った文章を引用します。

黒髪の乙女は二次会へは行かずフラフラと木屋町先斗町の夜へと消えていった黒髪の乙女のシーン

私は知人に教えられた、木屋町にある「月面歩行」というバーを選びました。その店はありとあらゆるカクテルが三百円で飲めるという、御財布への信頼に一抹の翳りある私のような人間のために神が与えたもうたお店だったからです。

第二章 深海魚たち

時季は夏。下鴨神社で行われる古本市が舞台です。古本市に弱いと自称する「先輩」が古本市に行かねばならない窮地に追い込まれました。思いを寄せる黒髪の乙女が行くというのです。これは、ある信頼すべき筋からの情報である。

この章では、古本市の神なる少年が現れ、「先輩」はなぜか、電車オタクと古本屋のジジイとスケベ集団の団員と天狗の5人で綿入れを羽織り、暑い麦茶を飲みながら火鍋を囲みます。そのあとラムネを飲んで涙を流します。

以下引用。

みんなでワイワイ火鍋を食べるシーンの描写です。

舌の上に広がるその味は、もはや味というよりも、荒削りの棍棒を用いたひと殴りというべきで、下鴨神社を中心とした半径二キロメートルに存在する「辛さ」という概念を一切合切この鉄鍋に拾い集めて煮込んではないかと思われるほど辛かった。

第三章 御都合主義者かく語りき

秋。学園祭の季節です。唾棄すべき「青春」の押し売り叩き売りをするようなところに孤高の哲人である「先輩」がなぜ足を運んだのでしょうか。

そう、彼女が来ると知ったからです。これは、ある信頼すべき筋からの情報である。

学園祭での迷惑行為「韋駄天こたつ」や「偏屈王」というゲリラ演劇はなんと、「パンツ総番長」の仕業だった!最終的には「先輩」が校舎から落っこちた拍子に演劇「偏屈王」のフィナーレを乗っ取って黒髪の乙女と抱き合うのです。

「青春」の押し売りか?こら。

以下引用。

演劇「偏屈王」の最終幕を追って、校舎の屋上に来た先輩がなんかよくわからないけど、屋上から落ちてしまいます。しかし、校舎から出ていた物干し竿に引っかかって最悪の事態を免れました。その時の描写。

落下した私は右手に達磨の首飾りを握りしめていた。それが、研究室の窓から突き出されている物干し竿の先端に引っかかった。ぶら下がっている白衣やシャツとならんで、一瞬、私は宙ぶらりんとなり、親の仕送りでのうのうと寝て暮らすぼんくら学生なみにぶら下がった。

第四章 魔風邪恋風邪

冬になりました。イケてない「先輩」(および作者氏?)が忌み嫌うクリスマスの季節です。これまでに登場してきた人物たちが、古本市の神と黒髪の乙女を除いて全員風邪をひきます。

感染力の高い風邪は京都中に広まって、クリスマスの時期だというのに街が閑散としてしまいます(なんだか“イマ”みたいですね)。そしてその風の根源は、糺の森に住む李白翁でした。黒髪の乙女は妙薬「潤肺露(ジュンパイロ)」(今のアレにも効きそうな名前です)をもって糺の森に向かいます。妙薬をなめさせることに成功しますが、くしゃみによって生じた竜巻に飲み込まれ飛ばされてしまいます。天狗から浮遊術を教わっていた「先輩」はその浮遊術を使って黒髪の乙女を救うことができました。熱にうなされてみた悪い夢かと思いきや、起きるとそこには黒髪の乙女がいて、2人はめでたくナカヨシコヨシになるのでした。めでたしめでたし。

ハッピーエンドかよ!

全く意味はないのですが、李白風邪の感染経路をざっくり図解してみました。黒髪の乙女は、風邪の神様に嫌われているため無敵でした。

魔風邪恋風邪

以下、引用。

先輩が熱にうなされて脳内会議を開いたときの大演説です。

しかし、そこまで徹底して考えろというのならば、男女はいったい、如何にして付き合い始めるのであろうか。諸君の求めるが如き、恋愛の純粋な開幕は所詮不可能ではないのか。あらゆる要素を検討して、自分の意志を徹底的に分析すればするほど、虚空に静止する矢の如く、我々は足を踏み出せなくなるのではないか。性欲なり見えなり流行なり妄想なり阿呆なり、なんと言われても受け容れる。いずれも当たっていよう。だがしかし、あらゆるものを呑み込んで、たとえ行く手に待つのが失恋という奈落であっても、闇雲に跳躍すべき瞬間があるのではないか。今ここで跳ばなければ、未来永劫、薄暗い青春の片隅をくるくる回り続けるだけではないのか。諸君はそれで本望か。このまま彼女に想いを打ち明けることもなく、ひとりぼっちで明日死んでも杭はないと言えるものがいるか。もしいるならば、一歩前へ!」

さらに、季節は違いますが、イマっぽいなあ、と思った先輩が万年床で京都テレビをみているときの描写。

街に猛威を振るっていたクリスマスムードに取って代わって、風邪の神が主役の座を占めている。総力を上げた風邪特集が続き、もはや私には役に立たない風邪予防対策の数々が流れている。クリスマスイブを目前にして賑わうはずの街を、風邪の神が蹂躙中だという。思わず私は快哉を叫んだ。どうせ私も一人淋しく風邪の苦しみに耐え、クリスマスイブに備えることのできない身の上だ。街へ浮かれ出ようとする不埒な輩は、一人残らず風邪の神によって自宅に蹴り込まれるがよい。

さらにさらに、先輩が樋口から樋口式浮遊術を教わるシーン

学生天狗樋口氏の教えは、これ以上にないぐらい曖昧であった。彼は知り合いの古本屋の家に上がり込み、勝手に物干し台まで出ると、空を指しながら私に言った。
「地に足をつけずに生きることだ。それなら飛べる」
まったく馬鹿にしていると思いながら、「ある日実家の裏山を掘っていたら石油が出て大儲け、億万長者となって大学中退、以降死ぬまで楽しく暮らす」と地に足をつけない将来のビジョンを思い描いてみたところ、身体はみるみる軽くなり、ふわりと物干し台から浮かび上がっていた。

―――
さていかがだったでしょうか。
森見登美彦氏の文章を上に私のあらすじ解説が雑だったために、読みたくなったのではないでしょうか。
ぜひ手にとって御覧ください!

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